三省会

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宇佐晋一先生 講話


うっかり脱線とみごとな修復  

 元旦はおめでたい新年を祝い、初詣に出かけた方がたも多かったに違いない。そこまではよいのだが、おそらく皆が皆、祈願をするに違いない。家内安全、福徳円満、健康長寿、合格成就など、この時とばかりに欲ばってお願いする。こんなことが当然のことのように行われる。それは許されていると勝手に考えているからである。それがどんなに真実からの逸脱であるか、まったく気がつかない。この脱線は自己意識についての正確な認識の不十分さによるもので、折角それまで骨折った修養のぶち壊しである。これについての批判はすでに「初詣にはご用心」と題して2020年12月にこのHPで述べたところである。その後ある方から「初詣をしたらあかんのですか」と笑顔で尋ねられたことがあるが、初詣そのものは悪くない。なにがいけないのかというと、自己意識内容を言語化や論理化をして真実を見失う祈願がいけないのである。

 ところが今年は事情がまるで違った。その脱線が数時間で自動的に修復されたのである。これはみごとといってよい。午後4時過ぎに震度7、マグニチュード7.6の巨大地震が能登地方を襲った。そのニュースを聞いてから数10秒のちに京都でも緩やかに揺れが始まり10数秒続いた。それは震源である能登から京都に伝わる波の速度をテレビのおかげで実感することができた貴重な体験であった。テレビで伝えられる被害は日を追うて厳しく、驚きの連続であった。能登半島の各地において、1月9日現在、死者200人超、けが人565人、安否不明者102人、避難28,160人、さらに道路の寸断、停電約16,000戸、断水5,900戸、避難所の生活環境の不備、津波被害などで、7割超の50漁港が操業不能となった。すぐにはどうにもならないなかで、国や各地の自治体が早速動き出したのは喜ばしいが、予測不能なことが多いという。今後28,160人の避難者に健康被害(低体温症、感染症など)が問題である。

 1月2日には夕暮れ時に羽田空港C滑走路で日本航空機516便と海保機の衝突事故が起こった。どうしてこういう事故が起きたのか不思議なことであったが、原因は海保機の管制塔からの指示の勘違いによるものだったいう。人間の判断の隙を突いたことである。海保機で5人の犠牲が出たが、それにしても乗客と乗員あわせて379人が火災機から無事脱出し、最後に機長が出た時は18分後であったのはみごとである。客室乗務員の話によれば、日頃非常時には8ヶ所の扉から12秒で脱出する訓練をしていたそうで、それが生かされたのである。

 以上すべて他者意識についての話題であったことは申すまでもない。ここに人間の真実が現れる。そこには心の入り込む隙がないのである。

   2024.1.9



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