三省会

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宇佐晋一先生 講話


「走泥社再考展」に寄せて - 五条坂から世界に発信した独創的な前衛的陶芸

 医師になって3年目の1953年(昭和28年)若い頃の私の胸躍らせられる思いで観た<走泥社展>やそれに続く<四耕会展>は、ちょうどその頃伝えられたピカソの陶芸、イサム・ノグチの抽象石造彫刻などと相俟って、彫刻における近代の到来を否応なしに納得させられる目覚ましいものであった。今回京都国立近代美術館で「走泥社再考展」が開催され(9月24日まで)、懐かしさのこみ上げる思いであらためて作品群を観た。その結成70年記念展という年月にも驚いたが、清水焼の歴史を誇る伝統の中に育った五条坂の若い陶芸家たちによって、一時代を画するモダンな陶芸による前衛オブジェ(八木一夫はこれを「オブジェ焼」と称した)が創出されたことに敬意を抱かざるをえなかった。しかも国際展に出品して次つぎと評価を得たことも重要である。 

 走泥社は八木一夫(写真1)、叶哲夫、山田光、松井美介、鈴木治(写真2)らの5人が、青年作陶家集団から独立して誕生した。ほぼ同時に宇野三吾、清水卯一らの四耕会も結成され、ともに抽象陶彫の道を歩んだので、今回の展覧会は両集団の作品が一堂に会している。その点では同時にパブロ・ピカソの陶芸作品も出品されていて、観る人の眼を楽しませてくれるのは幸いである。走泥社の面々が陶芸家から前衛芸術に入ったのに対し、彫刻家から転じた人に辻晉堂(京都芸大教授)がいる。その作品もあわせて出品されていて(写真4)、芸術性の高さが見ものある。

 そもそもアバンギャルドとは、三省堂『大辞林』(1989)によると
①第一次大戦前後にヨーロッパに起こった芸術上の革新運動。主に抽象主義とシュールレアリズムをさす。
②特定の流派に限らず、表現・手法・芸術観の急激な変革を求める芸術精神。前衛芸術。
③革新的な芸術運動を行う人。前衛。
とある。こういう意識から、産業を離れた急進的な陶芸家集団が生まれ、70年を経た今もその作品には意表を突く、みずみずしさがみなぎっているのである。

 偶然私は走泥社の幹部八木一夫の訪問を受けた。友人の内科医が連れて来たのだが、来訪の意図は不明である。まったく独りでしゃべりまくり、ある考古学者が「この土器はあんたらにはわからんやろうけど」といったことに腹がたつと言って3回繰り返した。鈴木治は私の病院の宿直医を訪ねて来て、温厚な控えめな人であった。また1959年から同人になった寺尾恍示(写真3)の来訪を受けたが理論家であった。走泥社外の抽象彫刻家では上記の辻晉堂京都芸大教授は知人の診察について来られ、私の診察の途中で思わず口をはさみ、「禅そのものですね」といわれた。前衛陶彫家と一口にいっても十人十色である。走泥社は1998年に解散した。
   2023.8.9
参考文献並びに写真の出典 - 京都国立近代美術館編『走泥社再考』2023



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<写真1>八木一夫 ザムザ氏の散歩(1954)




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<写真2>鈴木 治 作品(1954)
 



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<写真3>寺尾恍示 作品63-A(1963)




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<写真4>辻 晉堂 時計(1956)






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