三省会

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宇佐晋一先生 講話


筋肉はほぐさなくてよい  

 NHKの「みんなの体操」では「身体を前に倒して両手で脚をポンポンと叩いて、筋肉をほぐしましょう」という。また日によっては「両手をブラブラーッとして、筋肉をほぐしましょう」ともいう。まるで、ほっておくと筋肉はこり固まってしまうと予見し、それを早目に体操によって防ごうとする意図のようだ。ただ1人同席のピアニストが快く軽やかな指の運動を、筋肉をほぐすことなど、どこ吹く風と動かして演奏しているのはかえって皮肉としか見えないのである。

 そもそも「肩が酷く凝っている、パンパンだ」と言われたら自分でも「これはほって置けない」と思うものである。それほど筋肉は凝り固まっているべきではないという前提が日常の健康感のなかにふかく根付いている。

 筋肉が凝りかたまっているのは病的なのか。先ずそこから検討していかなければなるまい。筋肉は放置した場合に独自に凝りかたまるものではない。ひとえに中枢神経ならびに末梢神経の興奮によってのみ左右される存在である。したがって、器質性の障害を除いて、どんな場合も筋肉が優先的に体調を左右するということはなく、神経の状態次第なのである。

 戦争中の軍事教練を受けたわれわれは筋肉のつねにしっかりと緊張していることを強いられ、「休め!」の号令が出るまでは緊張を続けていなければならないのであった。こういうことは何かの時にお役に立つかと思い、書きとどめておく。

 それとは別に森田療法家宇佐玄雄は「肩が凝る」と訴える三聖病院入院患者に「左肩を凝らせてごらんなさい」と指示したものである。「そうするとすぐ左肩の凝りは治りますよ」と自分で実証させた。これは極めて確実な体験治療で、森田療法の即時的な治癒を示すものであった。森田神経質の他の症状も治そうとすることをやめれば、早速全治することを解らせる講話の一場面であった。

   2023.6.10



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