三省会

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宇佐晋一先生 講話


あるがままの研究では治らない  

 森田療法でなにが難しいかといって、伝達ほど難しいものはない。森田療法の「あるがまま」は本来伝達できないものであるからである。他人や本によって教わったのはことごとく「あるがままについて」のことであって、本ものの「あるがまま」からは遠く離れて、本ものはもうそこにはない。別のいい方をすれば教わった「あるがまま」で治ったつもりになっている人は、これからもっとよくなるということが約束されているのである。

 本ものをぜひどなたにも見きわめていただきたいが、それは理論学習のなかにはなく、それの学習によっても伝わらないとすれば、早速ことばによる理解をやめて、実際生活にふみ出すとよい。それには精神生活も含まれる。どのような工夫研究でもあてはまる。学校の授業、宿題はもとより、体育、登山、水泳など上達を目ざすものはことによい。極端な例をあげれば、仮に男性でもNHK TVの美容談義のたあいもないおしゃべりのなかに首をつっこんで、発言者のつもりで緊張のまっ只中にいるとよい。教養番組、たとえば「英雄たちの選択」、「にっぽん!歴史鑑定」。また「ブラタモリ」のなかの地学、岩石学には現地で学ぶべきものが多い。昔は私もよく歩いていて考古学上の遺跡の発見をしたものである。1944年(昭19)には宇治市大久保で広野廃寺(7世紀)、その数年後には城陽市で平川廃寺(7世紀)、その南の近所で正道官衙関連遺跡で7世紀初頭の飛鳥様式の瓦をみつけている。ところがスクーターや車に乗るようになってからは1度もそういうことがない。やはり注意が行き届かないのでだめである。その代りクイズ番組にはまっている。「アタック25」、「東大王」などでは真剣に競争したり、かつて講義していた「世界の美術史」を生かして「なんでも鑑定団」に挑戦し、勉強している。また「100分 de 名著」はまことにすぐれた教養番組で、じつに多くのことを身につけることができた。聞き流すのがもったいないので、つねにノートを傍らに置いて、こまめにメモをとっているがあとで役立つことがあって喜んでいる。ご参考までに全治の精神作業を述べた次第だが、こうして「あるがまま」は他者意識の中に伝わるのである。

   2022.10.31



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