八角円堂の美しさ
和歌山県の橋本市から東へ進むとやがて奈良県の五條市に出る。そこに柿の葉寿司の本店がある。そこから少し山に入ったところに静かに栄山寺の八角円堂が佇んでいる。他の堂塔は残っていない。奈良時代末に恵美押勝が建立したことの明らかな私寺である。壁画が一部残るので見学に行ったが、たまたま住職が不在で入れず、堂々たる趣を見たのみで橿原市へ向かった。
法隆寺には東院伽藍の中心に有名な夢殿がある。聖徳太子の宮殿の故地に奈良時代に行信らによって追慕して建てられた風格のあるものだが、本尊の救世観音は名高い飛鳥仏である。法隆寺には西院伽藍の回廊の北西に、小高い所に西円堂が立つが平安時代の堂々たるものである。
奈良には興福寺に北円堂と南円堂という、ともに鎌倉時代の背の高い八角円堂がならび建ち、気高い名建築である。北円堂には無著と世親というインドのグプタ朝の名僧の写実的な、しかし身長が人体を超える大きな像が立っている。運慶の作と伝えている。
京都では仁和寺に円堂院(888)があって緑釉瓦で屋根を葺いていたことは前号でのべた。しかし今は残っていない。
現存するのは、太秦広隆寺境内の西に少し離れて建つ鎌倉時代の桂宮院(けいきゅういん、非公開)を先ず挙げねばならない。その外観は独特で濡れ縁をめぐらす軽快な作りである。中に金色に輝く如来像が立つ。
もう一つは東福寺の通天橋の北西にある重要文化財三聖寺愛染堂で、室町時代の重厚な印象の赤くぬられた堂である。愛染明王を祀っている。これはもと旧三聖寺(現万寿禅寺)の客殿の西に建っていたものであるが、1937年9月21日の室戸台風によって倒壊した。筆者の小学2年生の秋のことであった。その後、東福寺に移築されたが、文化財登録名として、三聖寺の名を今日に伝える唯一のものでコケラ葺に復元されていた。この八角円堂の屋根の上には火焔形の宝珠があり、全体を引き締めていて美しい。
通天橋を渡り、開山堂へ上るには拝観料が要るけれども、途中前方にあるこの愛染堂を見逃さないように願いたい。
2025.2.24