三省会

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宇佐晋一先生からの
メッセージ
令和3年1月10日


緊急事態でも不安の解決はあるか  

 新型コロナウイルス感染症の拡大はすさまじい勢いである。緊急事態宣言が出された都県はもちろんのこと、そうでない地域にも緊張が走る。日本医師会が待合室用に出している「日医ニュース」の1月5日号に「ストレスに強くなろう」というテーマでの特集記事がのっているが、今度ほど白々しく思えたことはない。「ストレス過多になると自律神経のバランスが乱れる」という話から始まって「ストレスに強い体を作るために行いたい毎日の習慣」が5つ述べられている。

 だれも今さらストレス対策強化法など希望する人はいないであろうし、生死にかかわる問題が日本中いや世界中の人びとの生活空間にさしせまっているのである。皆が不安のまっただ中といってよい。こんな時にもよい生き方というものがあるのだろうか。だれしもが平等にその不安に直面していることや、アメリカやイギリスでは1日に何万人もの感染者が出ているのにくらべれば日本はずい分と少いことに、いくらかの安心があるにもせよ、国家的重要さにおいては楽観的資料はなにもない。ただワクチンの接種が期待されるのみである。それまでは不安にさらされていなくてはならない。

 ここでせっぱつまった人の話は多分参考になるであろう。14世紀に南朝の後醍醐天皇をたすけて転戦した知略の武将 楠木正成が形勢不利ななか、大阪府の北部の桜井駅で息子正行を国もとの千早赤阪村に帰し、みずからは西からの足利軍との湊川での決戦に向けて進む途中、現在の高槻市の広厳寺に立ち寄り、中国からの来日僧である明極楚俊(みんきそしゅん)の名声を聞いていたので面会した。正成が「生死交謝(しょうじきょうしゃ)の時如何?」(生きるか死ぬかの時は どうしたものでしょうか?)と問うと、即座に「すべからく双頭を断絶すべし(自分について生とか死とかの対立概念を使ってはいけない)。一剣天に倚(よ)って寒(すさま)じ(頭の上に敵の剣が来ているぞ)」と答えた。それで正成は湊川に向けて出陣したのであった。今日においても自己概念は最初からはぶくのが賢明である。

     宇佐 晋一
  (2021年1月10日) 



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