三省会

目次

宇佐晋一先生 講話


長い名前の本を書く

 出版社が本の題名をきめるのにどれほど苦労をしているか、今までまったく知らなかった。それは編集者まかせで、こちらは原稿を渡せばそれですんでいたからである。ところが今回は編集者が病気になって入院したものだから送り返された原稿を一から工夫しなければならなかった。出版社としてはこれまでその出版社で出した2冊の売れ行きが思ったほどでなかったらしく始めからそれほど乗り気でなかったのを承知で、題名を工夫して頼み込むのだから大変だった。こちらの提案した希望の題名は『不安緊張についての悩みの瞬間的解決』であったが、出版社は「文庫本めいて安っぽい」と言って変更を希望。『不安緊張に悩む人の心の講話と全治への道』という長い題名を提案してきた。今度は私がそれでは今のあるがままが全治である森田療法としてはおかしい。『全治への道』の「へ」を削除してほしいと訂正を願った。それは了承してもらえたが、さらに『〜森田療法家・宇佐晋一の思い』を追加するといってきた。ということで実に長い名前の本が世に出ることになった。

 神経症に対する森田療法の有効性は今日でこそ世界的に知られるようになったが、自己意識内で「楽になろう、治そう」とする常識的な工夫のやりくりが神経症成立の病因であることを見ぬけば、「治さないこと」の徹底において全治はすぐに成り立つのである。神経症が治そうとする病気であることを見ぬくことなく、種々の療法が創案されたが、どうしても治る目標をもってしまう。たとえば認知療法における「マインドフルネス」のようなのがその好例である。

 森田療法では自己意識はイライラ、ハラハラ、ビクビク、ヒヤヒヤのまま、他者意識上今必要な社会生活で世のため人のために働くことが全治である。

 私は森田療法家として唯一カールロジャースと禅の久松真一先生と鼎談をした。本書の慈恵医大森田療法センターの名誉会長中村敬先生の『宇佐玄雄、宇佐晋一を読む』のなかに詳しい。これはありがたい本書へのお墨付きである。

   2024.6.10



目次