三省会

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宇佐晋一先生 講話


不安の解決に心は関係がない  

 テレビの「悩みごと相談」の番組を見ていると、考え方を変えたり、心のあり方に工夫を加えるものなどが多い。中には心理学的な解説で、理解を深めることによって、自己洞察どうさつを深めたら解決すると説く学者の、もっともらしい意見もあって、聞く人びとを感心させている。また例外なく心を明るくするようなものや、心がいやされるものが話題になっていて、抑うつ状態を無くそうとしていることがよくわかる。要するに気分転換が中心になっていて、新しい精神生活が始まりやすいように仕向けているのだといってよいのではなかろうか。

 こういう話は当たりまえすぎて、どうしてわざわざ取り上げるのだろうと、いぶかしく思われるだろう。ところがそこに大きな問題があるのが気付かれていないのであって、そこを上手に解決したら、誰の手も借りないで見事に悩みごとは解決するだけでなく、不安という不安のどれ一つも起こりようがなくなってしまうのである。 

 はっきりいっておかねばならないのは心の問題、自分で見た自分、すなわち自己意識の内容は、筋を通した正論の通じない世界なのだということである。しかし臨床心理学があるではないかといわれそうであるが、それは他人が客観的にこちらの心のなかを取扱とりあつかっているから学問として成り立つのである。それに対し自己意識の内容は自分の主観で描き、作り上げてしまった世界なので、事実でないことがわからずに信じこみ、無批判に思いこんだ自己像にすぎないのである。それは主観的な虚構の世界なので、真実と思って取り組むことで脱線してしまうから、知性で抽象的論理的に解決しようとすることが間違いなのである。むしろ一切手出しをしてはいけないことを早く知って、自分や心について論ずることをやめれば、即刻真実に生きることができる。それはなにも難しいことではなく、今の目の前の現実の課題に敏感に対処して、ただならぬ緊張のうちに社会生活上の工夫を手ぬかりなくなしとげていくことが、ほかならぬ不安の真の解決が同時になりたつ姿である。現実の新型コロナ感染症拡大への対応こそがまさしくそれなのである。

     2020.11.12 



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